ローズガーデン物語 第11回 ハーバルライフの勧め(2)
桜庭さんのローズガーデン物語の第11回です。
桜庭さんが勤務する農業高校の「総合実習」の科目に、桜庭さんの提案で「ハーブ班」が新設されます。
そのことが桜庭さんの教員としての自らの価値観の転換につながっていきます。
原点は自身が育った矛盾の中にあるような農村社会。
「農業」とい言いながら「業」にできない自らを思いながら、この命題を解くことがより深くハーブの世界へ桜庭さんをいざなっていきます。
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農業高校の科目の中に、「総合実習」という科目がある。2クラス80人の生徒を2、3年生でそれぞれ6展開する。
野菜、草花、植物バイオ、実験動物(動物バイオ)、動物生産、環境制御の6つの専攻班に分かれて生徒は2年間勉強する。
この6班の中で環境制御班の動きが思わしくなかった。担当していた教員も重荷になっているように、私には見えた。
その教員と水面下で話し合った。次年度の2年生の総合実習で、「環境制御班」を解消し、「ハーブ班」を新設する。
そして、年次進行させることで担当者同士の話がまとまった。
2月の学科会議で、この話を切り出した。
生彩を失っていた環境制御班については、他の教員たちもどうにかしたい思いであった。
だが、環境制御班を潰す、という強い考えはなかった。
どうにかしなければならないが、どうしていいのかわからない、といったところで立ち往生していた。
現代の農業を象徴していると言ってよい。
▲業として成り立つハーブ苗の生産と直売の例
そこで、環境制御班を潰すのではなく、ハーブという新しい素材で次の時代を担う人材を育てるために、環境制御班を発展的に解消したい、と論を展開した。
担当する教員が交代して内容も変わる。
「ハーブ」という内容は、学科名からは離れた領域になることは否めない。
そのことが、他の教員には抵抗があったのだろう。
私が異動した年に、テニスコートと温室の間の茂みを撤去して、そこへバラをボーダー状に植えるという企画が県の予算取りに成功した。この計画を遂行したひとりが私であった。
バラを植えたはいいが、どの科目に位置づけて、誰が日頃の栽培管理を担当するのかが、まだ決まっていなかった。
そこで、「バラもハーブである」と説き、ハーブ班の教材としたい、と話を続けた。
学科再編から10年が経つ。
10年間同じ内容を教え続けることの方が、すでに硬直して時代の変化に対応し切れていないことを、その場にいた教員は認識していた。
その結果、ハーブ班の新設が了承された。
同時に、担当になった私は、新たな領域を勉強することになった。
平成8年のことである。
もやっていた霧がすぐに晴れてしまった私は、管理職とは違う到達点を創ろうと考え始めていた。
原点は、やはり自分の子供時代にある。
閉塞的な農村、農家。
「農業」と言いながらなかなか「業」にはできない。この命題を解くことの方が、私にとっては楽しくやり甲斐があった。
▲考えた結果はいわゆる「農業」ではなく、ローズガーデンというサービス業。
何をすれば、命題を解く糸口につながるのか。しばらく考えていた。
「生活を楽しむ」視点で農業を考えると、『ハーブ』という単語が残った。
ハーブは、農産物としても成り立つが、なんといってもイメージに広がりがある。
広がりがあるということは、付加価値を付けやすい素材である、ということを私は身銭を切って学び始めていた。
生徒に教える領域が、自らの到達点になり得ることを予感していた。
そして、このことは、教員としても自らの価値観の転換を促すことになった。(第12回へつづく)
▲ハーブには広がりがある。写真はあるオーガニックレストランのハーブ料理。