ローズガーデン物語 第7回 市民講座(2)
桜庭さん夫妻の市民講座が始まりました。
人間というものは、弱い生き物です。欲望はこんなところにも出てきます。
カルチャー教室でも「少しでも人よりも得をしたい」という焦りが行動に表れるのでしょうか?
前回のコラムで、「花でも野菜でも、苗は大きければいいというものではありません」
という桜庭さんの説明に、自ら選んだ苗と残りの苗を見比べて受講生の一人が発した言葉。
「取り替えてもいいですか」
上の写真に桜庭さんがつけた題名は、「神さまはお見通し」。
少しばかり欲張ったところで、長い時間の中でみればそれが本当に得になるのかどうか。
まずは、「今」を純粋に楽しんでみては?
受講生にもいろんな人がいるようです。
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ひとりが席を立つと、続いて数人が苗を交換に行った。
「苗半作、という言葉が農業にはあります」
充実したよい苗を作ることは、収穫終了までの全行程の半分成功したのと同じ意味を持つ。
苗の段階で、将来の開花数や着果数がほぼ決まってしまう。花芽分化 という細胞分裂が、苗の体の中で始まっている。見かけだけ大きなひょろひょろ苗では、花芽が飛んでしまっていることが多い。
受講生は、うなずいていた。
こんなこともあった。
2回目の「ハーブの寄せ植え」のときである。
畳の3分の1ほどの大きさのプラスチックケースに赤土、腐葉土、牛糞堆肥を入れ、苦土石灰を霜が降りたようにうっすらと載せた。そして、化学肥料を一握り散らせた。
▲腐葉土づくり。植物を育てるのに用いる土の物理性、化学性を高めるためには腐葉土が必要だ。
ボールプランターに入れる土の構成要素を一つずつ説明した。
どうして赤土なのか? 腐葉土や牛糞堆肥を入れると、どうして良い土になるのか?
園芸やガー デニングに興味があっても、どうしての質問にはなかなか答えてくれる人はいない。
ホームセンターの店員に尋ねても答えてはもらえない。
普段抱いている疑問に合点がいくと嬉しいものである。これがカルチャーであり、市民講座の果たす役目でもある。
「土をよく混ぜましょう」
各自の移植ゴテが動いた。よく混ざったところで、生徒さんに集まってもらった。
「先ほどお話ししましたように、良い土というのは、握って固まり手のひらの上で崩れません。でも、ちょっと力を加えると崩れます。これが良い土ですよ。ボールプランターに土を入れる前に、試してみて下さい」
みんな、試した。
「ボールプランターに土を半分入れ、苗を植え付けてみましょう。最後は、ウォータースペースを作って下さいね。水が溜まる場所がないと、鉢全体にしみていきませんよ」
アシスタント役の妻と二人で巡回していると、つかつかっと妻が寄って来た。
ああいう人どうするの? 私に耳打ちした。
見ると、みんな寄せ植えしているのに、ひとりだけプランターに土をてんこ盛りしていた。
近づいて、
「寄せ植え、なさらないんですか?」
髪の短い五十代後半の女性に声をかけた。
「家に帰ってからやりますから」 (第8回へつづく)
▲バラの花芽。秋バラが終わると、バラは冬の間に翌年の5月に咲くための準備を始める。何事も大事なのは準備だ。